【コラム】“心のリワード”が集めた3600万円 片渕須直監督『この世界の片隅に』が示すアニメの明るい未来とは?

2015091613▲クラウドファンディングサイト「Makuake」より

片渕須直監督の新作『この世界の片隅に』が、クラウドファンディングによって3,600万円もの資金を集めた。ファンが好きな作家を直接応援できる現代的なシステム。その先に、アニメの明るい未来を期待したい!

ピックアップアニメ『この世界の片隅に』

広島の海苔漁師の娘・浦野すずはおっとりした性格で、絵を描くのが好きな少女。彼女は、幼いころに1度だけ会ったことのある若者のもとへ嫁ぎ、呉に移り住む。時は昭和19年、敗戦が色濃くなり、軍港であった呉はいくたびも空襲を受けることに。そんななかで、すずたちは日常を営んでいく。(予告編より)

●作品情報 【原作】こうの史代 【監督・脚本】片渕須直 【プロデューサー】丸山正雄(MAPPA)、真木太郎(GENCO) 【アニメーション制作】MAPPA 【公開時期】2016年秋予定

 ユーザーがアニメに出資

まだ公開されてもおらず、本編を制作するのはこれから……という劇場長編アニメ『この世界の片隅に』が大きな注目を集めたのは、今年3月のこと。サイバーエージェント社が運営する「MAKUAKE」にて開始されたクラウドファンディングにて、当初目標2,000万円を8日と15時間で達成し、最終的には3,622万4,000円。国内では過去最高を記録したのだ。

クラウドファンディングとは、不特定多数の人たちからインターネットを通じて資金の提供や協力を集めるシステムのこと。最近だとゲームの『シェンムーⅢ』が米国のKickstarterで、わずか3日間であっさり318万ドル(3.8億円)を突破してしまった。ここ数年のボードゲームのブームも、巨額の資金をかき集めるクラウドファンディングによるところが大きい。

アニメ作りには多額の資金がかかる。しかしBlu-rayなどの売上は伸び悩んでおり、財政事情が厳しくなるばかり。そんな逆風の中で、クラウドファンディングは救世主になるかもと期待されている。たとえばアニメグッズの商品化とか、アニメイベントの開催とか。アニメ本編でも、半分はできているショートアニメの後半のための資金集めなど、控えめな企画であれば成功例はいくつかある。

しかし、テレビアニメの制作は1本あたり1,000万円~2,000万円、1クール12話で1億円を軽く超える。劇場長編アニメでも、『かぐや姫の物語』の51.5億円は極端として(高畑勲監督はカネ使いすぎ)、『サマーウォーズ』で4~5億円との噂だ。

『この世界の片隅に』はこうの史代氏のマンガを原作としたアニメ。太平洋戦争当時の広島県呉市に暮らした主婦のささやかな毎日の物語ではあるが、アニメ映画にすると、規模がまるでささやかじゃなくなる。身の回りにあった、空襲や原爆で失われた風景を再現しようとする壮大な試みなのだから。

こだわりの監督・片渕須直

監督の片渕須直氏は、「構想8年、製作3年」という『アリーテ姫』を手がけた徹底的なこだわり派。アクション要素がなく地味な印象のため早々に上映が終わった『マイマイ新子と千年の魔法』も、有志が盛り上げて再上映→ロングランにこぎ着けた経緯があるなど、玄人好みのプロフェッショナルなのだ。

個人的に片渕監督のトークショーに行ってきたが、レイアウト原図や製作過程の展示がスゴかった。マンガに描かれた軍港に戦艦大和が入港していた日を、当時の呉港に停泊した船を片っ端から調べあげて特定し、その日の気温や天気までも突き止めていたのだ。

そんな片淵監督の作る長編アニメが1億円程度に収まるはずもない。3,600万円は“足し”にしかならず、予算の大半は従来どおり、製作委員会に出資してもらうしかないはずだ。

クラウドファンディングの意義

それでも、クラウドファンディングをやる意義がある。ひとつは、事前の市場調査になること。アニメは嗜好性が強く、ハマる人はハマるが嫌う人はとことん嫌う。また、「作り手が見せたい対象」と「本当に見たいユーザー」がズレていたりもする。先にマーケットの手応えを確かめておけば「事故」を減らせるし、製作委員会にも納得してもらいやすい。

そして、ネットで出資を募集するのは、ユーザーを育てていくことにもつながる。すでに大ヒットした原作やテレビシリーズの劇場版、または有名監督作品でもない限り、劇場アニメはゼロからのスタートだ。しかし現在のシネコン方式では、2週間程度で「失敗した作品」として打ち切られやすく、上映しながら知名度を上げる方法は使えない。スタートダッシュを切るためには、あらかじめ作品の存在を広めておくことが重要になってくる。

さらに「制作支援メンバーズ」というアイディアもいい。片淵監督を応援する人たちには「制作を後押しできること」が何よりの報酬。ファンミーティングへの参加やエンディングクレジットに名前が載るといった「心」に重きを置いたリワードが、後に続くクリエイターたちに理想的な道を開いてくれている。

『この世界の片隅に』にもうひとつ見習うべきは、「全国劇場公開は2016年秋」と期限を宣言したこと。クラウドファンディングって、作品や商品がいつ出るかをハッキリさせず、結局完成しないことも多いんですよ……。そこは出資者の好意に甘えちゃいけません。

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