【コラム】大人層を狙う『鉄血のオルフェンズ』 ガンダムはなぜ非富野化=変化を続けるのか?

2015112011

すでに多くの話題を振りまいて驀進中の10月スタートのアニメたち。その中でも注目を浴びる作品のひとつが『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』だ。監督・長井龍雪、シリーズ構成・岡田麿里という『あの花』コンビが手掛けるこの作品の狙いとは?

ピックアップ作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』

地球からの独立の気運が高まる火星。独立運動のリーダー、クーデリア・藍那・バーンスタインは護衛の依頼で民間警備会社「クリュセ・ガード・セキュリティ(CGS)」を訪れる。そこへ武力組織「ギャラルホルン」の襲撃が! CGS所属の三日月・オーガスは「ガンダム・バルバトス」を起動して対抗するのだった。(第1話より)

スタッフ…【原作】矢立肇・富野由悠季 【監督】長井龍雪 【シリーズ構成】岡田麿里 【キャラクターデザイン原案】伊藤悠 【キャラクターデザイン】千葉道徳 【メカデザイン】鷲尾直広・海老川兼武・形部一平・寺岡賢司・篠原保 【美術】草薙 【音楽】横山克 【アニメーション制作】サンライズ

『ガンダム』が変わった!?

秋の新番組『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の視聴者が本格的にざわめいたのは第3話のこと。主人公が3人射殺、しかもメカにも乗らずに生身で。「今回の『ガンダム』は、これまでとは違う?」と。

もし『ガンダム』に“異変”があったとすれば、それは少し前まで遡る。初代『ガンダム』生みの親である富野由悠季監督の『Gのレコンギスタ』が深夜放送になったが、これは『ガンダム』史上初だ。同時期の『ガンダムビルドファイターズ』と続編『トライ』も本物の機体ではなくガンプラを操縦するという、TVアニメとしては例のない試みだった。

「『ガンダム』は変わったか?」の答えはイエス。ただし、初めてじゃない。『ガンダム』は「変わり続ける」ことで、30年以上も生きながらえてきたからだ。

非“富野ガンダム”の誕生

そもそもファースト(初代『機動戦士ガンダム』)直後から、その兆しはあった。ガンダムの型番「RX-78」も、デカい戦艦が空中に浮くミノフスキークラフトなどの設定も後付だらけ。同人誌を作った人たちが監督に疑問をぶつけ、確認が取れたものが公式に採用されていった。

さらにMSV(テレビに出なかった機体バリエーション)のプラモとともに設定が続々と追加され、その延長でOVA『機動戦士ガンダム0083』など富野監督じゃない作品もロールアウト。ファーストと地続きの「宇宙世紀」ガンダムは、「非富野」シリーズに変質していったわけだ。

第二段階は「ガンダムいっぱい」へのシフト。生々しい戦争ものという枠組が、ガンダム同士がドツキ合う『機動武闘伝Gガンダム』の登場でぶっ壊された。素手で巨大ロボットを粉砕する東方不敗や、ネーデル(風車)やマンダラ(鐘)などハチャメチャなご当地ガンダムが暴れる作風にするよう今川泰宏監督に指示したのは、富野由悠季ご本人だ。その開き直りは「ガンダムがいっぱい」なので玩具が売りやすく定着した。

その次の『新機動戦記ガンダムW』は、それまで男くさかった『ガンダム』に女子を引き込む「グループアイドル」への変化だ。5人のパイロットがすべて美少年という設定は、主なスタッフが共通している『鎧伝サムライトルーパー』からの流れ。その元ネタである『聖闘士星矢』系の美少年戦隊ものを受け継いでいる。「まさかガンダムパイロットの水着グラビアがアニメ雑誌を飾るなんて!」と驚いたものだ。

歴代最高のセールスを誇る『機動戦士ガンダムSEED』シリーズもガンダムがいっぱい&美形がいっぱい。『機動戦士ガンダム00』は無骨なメカで男子向けエキスを強めつつも『SEED』を踏まえている。

子供向けか大人向けか

Blu-rayの売り上げが凄まじい『機動戦士ガンダムUC』はお金に余裕のあるファースト世代=40〜50代の魂を狙い撃ち。が、そこには子供の姿がない……。低年齢向けの『SDガンダム』シリーズもあったが、大きな市場には育たなかった。『機動戦士ガンダムAGE』は、その空白を取りに行った野心作。

が、主人公が「この戦争に勝利し、ヴェイガンを根絶やしにするのだ!」と叫ぶ世界観は子供にはハードコアすぎ、大人にとっては低年齢に歩み寄ったストーリーは物足りなかった。

2012年当時、ガンダム全体の売り上げ447億円のうち『AGE』が20億(ビデオ販売や玩具を含む)だったというから、決して満足のいく数字ではなかったはずだ。

その後の『ビルドファイターズ』シリーズも子供向けホビーバトルのフリはしていたが、80年代マンガ『プラモ狂四郎』生まれの「ガンダムアメイジングレッドウォーリア」が登場するなど、30〜40代を対象にしてるフシはあった。もし近年に大きな変化があったとしたら、「『ガンダム』は『AGE』でいったん子供市場を“諦めた”」ことではなかろうか。

ガンダムは大人向け。改めてそう定義した上で、「大人」の客層を広げようとしたのが『鉄血のオルフェンズ』だろう。長井龍雪監督とシリーズ構成の岡田麿里氏は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』を大ヒットさせて、ふだんアニメを見ないリア充どもの涙を振り絞ったコンビだ。

刑事ドラマは大人向けだが、『相棒』のように王道もあれば『SPEC』みたいな異能バトルもある。『ガンダム』もさまざまなメニューを揃えた1つのジャンルとして育てたい……その意図が「変化」の正体じゃないかな。

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