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賞味期限切れカツ横流し……船場吉兆からマクドナルドまで――2000年からの食品異物混入・偽装ニュースまとめ

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マルハニチロの農薬混入事件に、マクドナルドの使用期限切れ鶏肉問題で火がついた食品異物混入・偽装問題。2016年に入って食品は行き業者による廃棄カツ横流し問題で再燃しました。

とくに、ブログやツイッターなどを通して、これまではお客様相談センターだけが把握していた情報や画像がカンタンに拡散するようになり騒ぎが拡大する規模が大きくなっている印象です。

今回は、2000年頃から現在までの主だった食品異物混入・偽装ニュースを振り返りながら、これらの食品の安全性の問題がどのような扱われ方をしてきているのか、今回は皆の考える「安全性」とはなにかなどを探っていきたいと思います。

(※2014年発表の原稿に増補加筆を加えました/20016/01/28)

目次

2000年から2010年までの主だった食品異物混入・偽装事件

2000年からの食品偽装問題で話題になったものは大きく分けて産地の偽装と賞味・消費期限の偽装です。

産地偽装では、BSE対策の牛肉消費から、中国産をはじめとする外国産の食品を国産、もしくは国産ブランドと偽る問題が大きく取り扱われました。賞味・消費期限は、比較的保存の効くおみやげ物のお菓子である「赤福餅」や「白い恋人」などにはじまり、乾物などにも飛び火しました。

なかでも船場吉兆は、産地偽装・賞味期限偽装に加え、食べ残しも提供という裏ドラまでのって一年間を通して大きく報じられ、結果船場吉兆は倒産。名物女将も自己破産申請することになりました。

産地偽装と消費期限の偽装、どちらも企業側は最初から問題を知った上で行う悪質な行為で、どの企業も大きな社会的制裁を受けました。

<2001年から2010年までの食品異物混入・偽装の主な出来事>

  • 2001年 牛肉偽装事件:BSE対策の行政の国産牛肉買い取り事業を悪用し輸入牛肉を国産と偽り補助金を詐取した。2007年まで問題は続き、雪印食品、日本食品、日本ハム、西友、ハンナンなど
  • 2003年 飛騨牛偽装事件:肉質などの偽装表示
  • 2007年 ミートホープ事件:牛肉偽装が浮上したが、補助金詐取ではなく以前から偽装を慣行していた
  • 2007年 石屋製菓、「白い恋人」賞味期限偽装事件
  • 2007年 「赤福餅」の消費期限偽装事件
  • 2007年 船場吉兆事件:産地偽装、賞味期限偽装および食べ残しの再提供
  • 2008年 事故米不正転売事件
  • 2008年 キャセイ食品、冷凍野菜で中国産を国産と偽る
  • 2008年 産地偽装食品が多発。モチ、エビ、タケノコ、比内地鶏、酒、牛肉、魚介類など。魚介に至っては二割が不正表示とされ、大ニュースになる。
  • 2009年 上記事件を受け、食品の産地偽装に対する直罰規定が創設
  • 2010年 日本農林規格(JAS)法に基づいて実施した処分が816件。その中で公表されていたものは39件(命令、指示)で95%が非公表であることがわかり問題に。

次は、福島原発事故の起きた2011年から2013年までの主だった食品異物混入・偽装事件を扱います。

2011年から2013年までの主だった食品異物混入・偽装事件

2011年は、東北地方太平洋沖地震の影響で福島県の第一原子力発電所で発生した炉心溶融などの一連の事故で、放射能汚染の危険性と恐怖が日本をおおいました。

それにともない、福島県産の野菜、米、牛などが他県のものに偽装表示される事件が続発。 また、中国産野菜の危険性も大きくクローズアップされ、特に冷凍食品・外食で使用される野菜の産地表示を求める声が高まりました。

また、福島県産米の偽装問題からほかの産地米も新潟産に偽装されていたり、加工米が混入されていたりしたことが発覚。卸会社が解散するなど社会問題化しました。

さらに問題になったのが外食産業の中でも特にホテルチェーン業界です。オマールエビを伊勢海老と偽装したニュースから、ブランド牛、産地偽装、農薬使用の野菜をオーガニックと表記など1チェーン内で何十品目もの偽装が発覚。阪急阪神ホテルズの社長が引責辞任するなどの事態に発展しました。

行政では、加工食品の原産地表示義務が追加され消費者の声に答える形になりました。一方、食品偽装について公益通報制度で通報しても、5年間で改善指示が出された実績がゼロと、その実効性に疑問を投げかけられました。

また、外食メニュー表示に規制が必要か検討を開始。TPP交渉参加が決定し、食の安全性確保に関心が集まりました。次ページはホントにいろいろありながらも今では記憶に薄くなりつつある2014年をおさらいします。

<2011年から2013年までの食品異物混入・偽装の主な出来事>

  • 2011年 7月 コシヒカリ偽装販売で逮捕者
  • 2011年 9月 シーガイアが44品目、1万食で偽装
  • 2012年 1月 食品偽装で通報しても改善指示ゼロが報道される
  • 2012年 5月 福島牛の産地偽装疑いで逮捕者
  • 2012年 9月 福島産米を長野産に偽装し逮捕者
  • 2012年11月 加工食品表示義務が対象拡大
  • 2013年 5月 TPP交渉参加。食の安全の議論の声高まる
  • 2013年 9月 中国米を国産偽装
  • 2013年10月 過去最大の米偽装が発覚。刑事告発で卸会社が解散
  • 2013年10月 阪急阪神ホテルズ社長が食品偽装問題で辞任
  • 2013年11月 外食メニュー表示に規制を検討
  • 2013年11月 椿山荘など19施設70品目偽装。ホテル協会三割で虚偽表示と報告

2014年から2015年までの主だった食品偽装・混入事件

2014年は大きく分けて食品への異物混入と、食材購入・取引先の食材に問題があったケースが大きくフォーカスされました。

同年末にカップ焼きそばの「ペヤング」に虫混入のニュースが大きく報じられ、購入者がツイッターにアップロードした写真のショッキングさに瞬く間に拡散。その後、毎週のように各社の加工食品から食品混入があったとマスコミを賑わせていました。

また、中国のドキュメンタリー番組内でマクドナルドにチキンナゲットを供給している食品会社が取材され、変色した使用期限切れの鶏肉を混ぜ込む姿を放送。こちらもインターネットのYouTubeなどで拡散し大きな事件に発展しました。マクドナルドはその後大きく業績を悪化させ、2016年現在も回復の兆しはありません。

加工食品業界では、これまでは個別対応をしていた異物混入のケースも問題化し、どこまで情報を公開するのか、顧客対応をどうするかを大きく問われました。グローバル化が進む社会で仕入元の食材に間違いがないかをどこまでチェックできるかにも対応を迫られています。

次は2000年からの食の安全に関する報道の経緯を踏まえ、食の安全神話の「信仰対象」とはなにかを考えたいと思います。

<2014年から2015年までの食品異物混入・偽装の主な出来事>

  • 2014年 1月 敷島製パン 「なごやん」44万5000個を回収
  • 2014年 1月 マルハニチロと子会社製造の冷凍食品に農薬混入。社長引責辞任
  • 2014年 5月 プリマハム、ゴム製部品混入のおそれありとして一部加工食品回収
  • 2014年 7月 マルハニチロ、カルピスゼリー容器にカビ。67万個回収
  • 2014年 9月 日本コカコーラ、カビ混入で67万本自主回収
  • 2014年11月 マクドナルドのチキンナゲットに使用期限切れ鶏肉使用。販売中止へ
  • 2014年12月 まるか食品「ペヤング」に虫混入騒動。検査後混入で間違いないとされ全品回収。「写真付きツイート」が大きな波紋を呼び顧客対応にも批判集まる
  • 2014年12月 不二家ケーキにカビの報告受け調査
  • 2014年12月 日清食品冷凍、冷凍パスタに虫混入。74万6000食回収
  • 2014年12月 マクドナルド商品に異物混入続々。ゴム、歯、金属片、発布スチロール、ビニール片など毎週のように報道される
  • 2015年 1月 和光堂のベビーフードに昆虫混入で自主回収発表
  • 2015年 1月 ワタミタクショクに金属製ネジ混入があったと報道
  • 2015年 1月 ローソンの弁当にビニール片混入
  • 2015年 1月 マクドナルドの12月全店売上高21.3%減少
  • 2015年11月 直売所の食品表示監視強化 ルール厳守促す 12月から消費者庁
  • 2015年12月 消費者庁、健康食品ネット監視で26事業者に改善要請
  • 2016年1月 米国産豚肉など「北海道産」と偽装 帯広のスーパーが販売
  • 2016年1月 食品廃棄業者が、廃棄を委託したCOCO壱番屋の賞味期限切れビーフかつなどを横流し

大量生産の食品のもつ「工業製品」と「文化」という二つの側面

2000年から現在までの、報道された食の安全問題をまとめてきました。これらのニュースは大きく以下の4つに分けられます。

  1. 食品提供企業の悪意による食材偽装
  2. ブランド価値毀損の穴埋めや、低ブランド底上げのための産地偽装
  3. 原材料のチェック体制の問題により起きる食品汚染
  4. 製造過程・流通過程による異物混入

食品を扱う企業の姿勢として悪質なのは1で、2・3・4はその後に続きます。また、2000年からのニュースを並べてもおおむねこの順番で問題化されています。

しかし、製造過程に目をやると改善の困難さは4から3・2・1になっていきます。2014年末からの一連の異物混入の報道は一部を除いて現実的に回避不可能な事例が多く含まれています。

工業製品としての輸入食材は十分「安全」

食品は鉄やプラスチックではないので、いくら衛生的に隔離しても処理温度を高めて炭化させるわけにはいかないですし、人間の手の力で開封できる程度の包装に、虫などが入り込まないよう食べる寸前まで監視するのは不可能です。

仮に虫が混入していたことに気づかず食べてもそれで食中毒にかかるケースはほぼないとも言えます。加工食品を工業製品としてみた場合、現状でも十分衛生的で安全です。

あれだけ中国産食材の危険性が報道されても、それでも中国産食材に頼らざるをえない大規模企業や、検疫の執拗なチェックを経て輸入される中国産食材は65万件。アメリカの23万件の3倍ちかい件数です。そのうち違反状況は中国221件、アメリカ190件と拮抗。安全性で言えば中国産食材よりアメリカ産食材のほうが危険と言えそうです厚生省・平成24年度輸入食品監視統計・pdf)。

食中毒のほとんどが非衛生的な厨房での調理に起因し、残留農薬検査義務などもない国内の食材のほうが相対的に危険ともいえるかもしれません。

食事は文化的な側面でも「安心」したい

しかし、食事は栄養摂取と衛生面の安心のみが重要なわけではありません。安全面のみに留意するなら固形の完全栄養ビスケットや管理された宇宙食を食べればいいのに、世間には多くの種類の料理があり、どの店が美味しいなどの情報も熱心にやりとりされています。

「ペヤング」の虫混入事件でもなぜここまでの大きな問題になったかは、単純な衛生面の不安というよりも、ショッキングな画像によって「当たり前の食事」という文化的な概念が不安に陥ったことへの心理的反発と見るほうが実態に即しています。一連の異物混入事件は一種のホラーとして一般に受け取られているということです。

当たり前という感覚は、その対象の「食品ができあがる過程を気にする必要は全くない」という安心感から生まれます。管理され同一の製品が周りにあふれているという、普段は安心を後押しする事実ですら一度脅威を感じると、そのような工業的プロセス自体がよくわからないが故に恐怖の対象になりえます。

どこでどう虫が混入したかわからないがゆえに、自宅の冷蔵庫に収まっている食品たちに虫の残骸が混ざっていないとはいえない。この不安感は安全性の説明だけでは拭えません。テレビがいきなり爆発したり、画面から物が出てきたりしないことは理性では納得していても、いざ「貞子が出てくるかも」と言われると、恐怖の箱になってしまうという構造です。母親がレタスを洗うのが不徹底で芋虫がサラダからコンニチハするほうが安全性の面でも絵面のショック度も上ですが、「かあちゃん」という明らかな原因と結果が見えるときは「しっかりしろよ」で安心を取り戻せたりします。何故混入したのかわからないからこそ怖いのです。

ほかにも、イスラム教圏で豚から抽出したコラーゲンを原材料にした食品の流通が発覚し、パニックになった例を出してもいいでしょう。食の「安心」という文化的な側面は「安全」性を保証されても埋まるわけではなく、それを無知と笑うことも簡単にできるものではない性質の事象です。ま、それが即オーガニックだとかに結びつくのには疑問を呈したいですが。

100%「安心」を求めることは不可能

2000年からのニュースを見なおしてみると、この「安全」概念のために行政が食品会社に義務を課していっている側面が見えてきます。また、企業側も大きな食品問題は死活問題なだけに衛生面だけでなく文化面でのケアにも血道を上げています。業界団体である「食の安全・安心財団」の名前からもうかがえます。

今回の食品の異物混入事件でも、業界や行政から新たなガイドラインが提案され徐々に下火になっていくとは思います(しかしツイッターをはじめとするSNSで突発的に盛り上がりはするでしょう)。ただ、異物混入はこれまでお客様相談センターなどで個別対応されていた分野。悪意ある食材の偽装と違い、隠蔽というよりは不可避の事象です。良心的な企業ほど厳しい基準を立てて結局維持できずに、良心的な対応をするほど社会的制裁を受ける可能性が見えるだけに各社は頭を抱えていることが推察されます。

予測・次の食料の安全・安心問題

昨年後半から今年につづく一連の食品への異物混入事件は、やり過ぎではという意見も徐々に大きく扱われるようになり沈静化の兆しをみせています。

次に大きく食の安全、安心問題がクローズアップされるのは、私見ですがTPPによる食料輸入問題が合意に達するあたりだと考えます。

なぜなら、現在の日本の「安全」基準と異なる基準への準拠が求められる不安(日本は世界一安全な食品があるという神話)、日本の農業への打撃と自給率が大幅に引き下げられる不安(「日本の原風景である田園」という幻想)、さらに出自に想像が及ばない食材の増加、食品加工品の包装が外国基準の簡素なもののままなど、日本の食文化と慣習、そして「安全であるという安心」が脅かされる不安が多方面から一気にやってくるからです。

その時には、現在のように大きなニュースになったからといって新しい罰則規定ができたり新規ガイドラインが制定されたりという、文化的な禊ぎの色彩の強い落とし所も容易に設定することはできなくなります。

人間は、自分の消費の現場から遠い事柄のことは普段意識しないことで日常生活を円滑にこなせています。グローバルという自分の消費に決定的な影響を与えながらも、遠く掴みどころのない合理性の怪物に自分の生活を勝手に決められていく恐怖を感じるようになるでしょう。

近い将来、否応なくグローバルという果実を食べざるを得なくなったとき、「そのリンゴ、ポストハーベスト農薬の記載はされてないから、皮剥いて食べろよ」と言われるわけです。その禁断の実を前に、私たちの食の当たり前と思える文化はどのように変容していくのでしょうか。TPPが大筋合意に達した現在、その未来は確実に訪れます。

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