【Web漫画】日本人バンドデシネ作家の国内未発売作! 『SAD GiRL』が重すぎるけどおもしろいぞ

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日々更新されるWebマンガ。大手出版社も本腰を入れ始め、その量たるやハンパな数ではなくなってきた。いくら我らがマンガ大好きジャパニーズだとはいえ、すべてを追いかけるには時間がいくらあっても足りないことだろう。積んどくことができない媒体なのも悩ましいところ。そこでmitokでは絶対に外せない注目作品を定期的にご紹介。Webマンガ、これを追うべし!

高浜寛『SAD GiRL』 トーチWeb連載

フランス人漫画家の強い影響下に活動を開始し、国内よりも海外で注目を集めた珍しい日本人女性作家・高浜寛。最新作は廓言葉と九州弁を徹底して幕末の市井の空気感と長崎丸山の遊女の半生を描いた『蝶のみちゆき』で、ぱっと見の絵柄は地味ながら大人向けの落ち着いた作風が魅力の作家さんです。中には国内未発表の作品もあり、今回トーチWebでフランス語から初邦訳されたのが本作『SAD GiRL』となります。

主人公はどこにでもいそうな主婦・村上詩織。詩織はのっけからアル中の夫に悩まされ、睡眠薬の過剰摂取で自殺を試みるも失敗。親友の作家Aの家に転がり込むも、薬物依存仲間同士で非合法なクスリをやりまくり、覚醒剤所持でほどなくAは逮捕される。他にあてもなく元恋人Sとよりを戻せば、Sは妻に逃げられて5人の子供を抱えており、一家の借金を払うために詩織が体を売るハメに。

「なんか淡々とした筆致でひたすら女の人が不幸な目に遭い続けてるんですが……」と困惑してしまうノー前置きのどシリアス。日本の一般的な漫画とは異なる左開きの作品で、コマを読む順番が逆で台詞も横書き。動線や擬声語も最低限に抑えた静的な見せ方で、現代日本のジメッとした世界観をバンドデシネの様式で乾いた感じにとらえた不思議な情緒がある読み味です。

いやいやだった売春も板についてきた矢先、Sに性的虐待を受けていた娘が詩織と仲睦まじげな売春斡旋の兄ちゃんを刺殺。「あたしの代わりにずっとあの男の相手をしてくれなきゃ困る」とのことで……行き詰まった人妻が行く先々で行き詰まった人たちに出会い、どうにもならないまま再び行き詰まるという重すぎる人生ドラマが独特の温度感で続きます。

結局はホームレス生活に突入し、極限状況の中やけに綺麗に見える冬の河川敷でクスリの幻覚に悩んだり突如現れた夫の愛人に嫌味を言われたり……寒さと飢えに耐えかねて新興宗教に狂った母の実家に出戻っても息苦しい。気晴らしに阿蘇山に登ってようやく吹っ切れた気分になったかと思いきや、火山ガスを吸って死亡。ラスト黒塗り大ゴマで「やがて死んだ。次回、最終話――」って次どうするんだよ!?

日常の静かな悲しみやほの暗い官能といった日本的情緒を、テキパキと手早い展開の中で的確に勘所をおさえて表現。やさぐれた人間の表情や切ない横顔が異様に上手く、髪のほつれた幸薄い感じの人妻が好きな人ならグッと来ること間違いなし(?)。どん底に沈んでも力強く生きる市井の人間をそのまま描き切る、ヒューマニスティックな作風と乾いた表現形式の不思議なマッチングは謎の滋味アリ。日本人作家が海外向けに現代日本を描いたバンドデシネを日本語訳、というヘンな成立ちのためか非常にヘンな読み味ですが、この作家さんの基本的なスタンスは十分伝わるハズ。入門にぜひどうぞ!

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『SAD GiRL』掲載情報

・作者:高浜寛
・掲載メディア:トーチWeb

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