【コラム】6人の「キャラ立て」コントは顧客ニーズ戦略! 『おそ松さん』バカ売れの秘密

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話題というか騒動というか、とにかく大きな旋風を巻き起こしてきた『おそ松さん』が最終回を迎えました。BDの売れ行きは絶好調で、数々のタイアップキャンペーンも評判がよろしいご様子。本作がここまでのヒットとなったのはなぜなのか? その秘密を分析します!

『おそ松さん』バカ売れ

原作者の赤塚不二夫生誕80周年、約27年ぶりのテレビアニメ化! あの『おそ松くん』の6つ子が大人になって帰ってきた……という『おそ松さん』のリリース情報に、ほとんどの人が「誰得?」と思ったはず。いや、原作マンガを知らないイマドキの人らは「そもそも誰よ?」だったかも。

それがどうだ、『おそ松さん』を表紙にして特集を組んだアニメ雑誌が36年ぶりに増刷。『機動戦士ガンダム』のマチルダさん表紙以来のことだとか。えっ『エヴァ』でも増刷かからなかったんだ!? そんなふうにスゴいブームになっちゃってる。

第一松(話数)では『うたの☆プリンスさまっ♪』ほかパロディの嵐だった。他のアニメやマンガをおちょくる路線でいくのかな? でも、そもそもギャグアニメって円盤が売れないんだよね。などと斜に構えていたら、「6つ子の個性を前面に押し出す」方向に打って出た。これって、実は逆転の発想だったりする。原作でも過去のアニメ化でも「見た目が同じで区別がつかない」ことを軸にしてきたんだから。

6人の個性を楽しむアニメ

『おそ松さん』人気の勝因は、「6人の個性」にあるのは間違いない。キャラ人気は、アニメやマンガやゲームを問わず、ユーザーの心をつかむ基本だもの。顔の見分けがつかなかった(すでに過去形だけど)6人に、超人気声優たちのゴージャスすぎるメンツ。おそ松には今の『ガンダム』でもイケメン仮面やってる櫻井孝宏氏。カラ松はCOOLな役なら任せとけの中村悠一氏、チョロ松は人類最強から絶望先生までの神谷浩史氏……売れっ子ばかりでどうやってスケジュール合わせてるんだ? と、観てる側が心配になるほど。

キャストには、基本的にそれぞれの声優が持つ“文脈”が織り込まれている。兄弟の中では常識人でツッコミ役のチョロ松=『化物語』でもセリフ量が多かった神谷氏。孤立しがちな一松=思慮深いキャラをこなしてきた福山潤氏。でも、行動が意味不明の十四松に、空条承太郎とか漢度の高かった小野Dを持ってくる? このキャスティング、悪魔的に天才ですよ!

出オチかと思われた第一松のF6(『うたプリ』のパロディで6人の美形バージョン)も、おそ松=赤などパーソナルカラーを刷り込み、お客さんが区別しやすいようにしている。続く2話までに6人のキャラを立てたのは、すぐ視聴を打ち切ろうとする最近のアニメファンに対応した賢いやり方だ。

コント形式も成功のカギ

お話が一本の筋書きがあるドラマではなく、細切れのドタバタが詰め込まれているショートコント形式なのも、「キャラ立て」を考えたんだろう。この回はおそ松のいい加減さを、この話ではカラ松の空回りする痛々しさを。スタバっぽい店で働き合コンに誘われるトド松のコミュ力は………。

つまり、「ストーリーよりもキャラ」。妖怪メダル=キャラを売り込むアニメ版『妖怪ウォッチ』もコレなので、もしかしたら参考にしたのかもしれない。連続ストーリーものだと途中から入りにくいが、1回こっきりのコントだとどこからでも入れる。「大人気だから見てみよう」というライト層もつかみやすい。

キャラを立てるのは、お客さんのニーズに応えるということ。グッズにカネを落としてくれるお客はどこや? はい、腐女子です。6つ子を女体化して男の趣味を言い合ったりする「じょし松さん」なんてモロ、狙ってまっせ! ですよね。初期はチ○ポ当てクイズなど下品まるだしだったので、シリーズ構成を練ってるうちに女子の目線を意識したのかも。

腐女子が愛でるのはキャラ同士の関係性。ただしアニメでは「そういう空気」だけで十分。公式カップルを作ると興ざめという距離感もよく分かった作り。さすが『銀魂』の藤田陽一監督と脚本の松原秀氏、アタマいい!

その一方で、赤塚原作に対するリスペクトもあり。6人がいい年してニートという設定は原作の“毒”と、腐女子の「イケメン飽きたしダメ男もいいよね」を両立する落としどころだ。赤塚マンガバンザイ、Blu-rayがAmazon上位バンザイ!

とはいえ、6人のキャラが立ったぶん、ワリを食ってるイヤミ(前のアニメ版の実質的な主人公)がときどき哀れになりますけどね。鈴村健一氏の演技ちょう上手いのに。

(月刊ゲームラボ誌2016年4月号より転載)

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