【インタビュー】世界最強クラス「格ゲー」プロゲーマー・インフィル「ウメハラは乱されない」

005

『ストリートファイター』シリーズは世界各国でカリスマプレイヤーを生み出してきた。おとなり韓国のトッププレイヤー、Infiltration(インフィルトレーション)選手もそのひとりだ。『ストⅣ』をきっかけに表舞台に登場し、世界各地の大会で優勝。ゲーミングデバイスメーカー・Razerと契約し、韓国初のストリートファイタープロゲーマーとなった男である。ウメハラ、ときど、ジャスティン・ウォンなどのライバルとして活躍し続けるプロゲーマーに、これまでの軌跡、そして『ストⅤ』の手ごたえを語ってもらったぞ!

第2回は『ストⅣ』海外大会を振り返り、これまで戦ってきたプロゲーマーたちについて聞き出す!(聞き手|スカロケイ) ※第1回インタビューはこちら

インフィル選手インタビュー

第1回 3年でストIVの頂点に立つまで
第2回 「ウメハラは乱されない」インフィルがライバルたちを語る!
第3回 プロ契約の裏側と『ストV』上達法を語る!

razer01s

ゲーマーとしての芸風を確立

――2013年はインフィル選手のキャラクター性が確立された年だと思います。特に注目したいのは、EVO2013、『スパⅣAE2012』部門のルーザーズ準決勝、アメリカのPRバルログ選手との対決です。インフィル選手は1-2で押されている場面で、新しいキャラクターとしてハカンを投入しました。ちょっと盛った言い方をすると、全世界の格ゲーコミュニティがひっくり返るレベルの瞬間だったと思います。PRバルログ選手はインフィル選手の豪鬼にうまく対処していましたが、ここまで大事な場面で当時弱キャラに分類されていたハカンを使うというのは、相当難しい選択だったと思います。今でも疑問です。なぜハカンだったですか?

インフィル 実はその選択には裏話があります。EVO2013開催の直前、ジャスティン・ウォンの家でお世話になっていました。彼の家でオンラインプレイで練習をしていたら、PRバルログ選手と当たりまして。普通、大会の前に有力選手と当たる場合は、自分の手の内を隠したいじゃないですか。でもPRバルログ選手はいつも通りバイソンで来たんですよね(※海外版では、バイソンのキャラ名がBalrogに変更されている)。自分はどうせオンラインだし違うのを試してみたくて、当時それなりにプレイしていたハカンを選びました。選んでる最中にも「だめだろうなー」と思ってたんですが、これが意外と勝てたんですよね。PRバルログ選手は、ハカンをというキャラをまったく知らなかったんです。

そのあと大会で実際に当たりました。最初は豪鬼で行ったんですが、PRバルログ選手の豪鬼戦に対する研究がものすごかったんです。セービングアタックを絶妙な位置で繰り出されて、対応に困りましたね。一試合はなんとか取りましたが結局1-2の状態になりました。EVOはアメリカの大会なので、PRバルログ選手を応援する声もすごく、自分は完全アウェイ状態でした。彼は完全に勢いにのった状態だったんです。こっちがもう引けない状態だと知ってたのか、その勢いを維持したかったのか、すぐ次の試合を催促して来ました。

あの時、そのまま試合を進めていたら100%負けてたと思います。自分はその勢いをクールダウンさせるために、時間を使いながら対策を考えました。そこで、EVO直前にオンラインで戦ったのを思い出したんです。自分はハカンのスペシャルリストではありませんし、一般的なキャラ相性的にも、ハカンはバイソンに押されるキャラクターです。しかし、PRバルログ選手が今もハカンを知らないのであれば十分勝算はあると判断しました。そして、このハカンで善戦すれば、会場の雰囲気を自分に持ってこれるかもしれないと。

博打とも言える選択でしたが、ハカンでなんとか一試合を取り返したら、PRバルログ選手を応援していた観客が自分に声援を送り始めました。そしてPRバルログ選手も、意外なキャラに負けて焦っているのが感じられました。その時「OK、流れはこっちに来た」と(笑)。試合を振り返ってみるとお互い緊張して細かいミスが多かったんですが、なんとかぎりぎり勝てました。勝てたから言えることになりますが 、いい戦略だったと思います(笑)。

▲インフィル選手が、キャラクター性を確立したと言える一戦。EVOルーザーズ準決勝、負ければ敗退が決まる絶対絶命の場面で、弱キャラに分類されるハカンを選択。その画面が放送された瞬間、全世界の格ゲーコミュニティがひっくり返った。

――キャラ選択のカーソルがハカンに移動した瞬間に、それまでPRバルログ選手を応援していた観客がインフィル選手を応援し始めたという印象です。ファンの声を聞いて、どういう風に感じましたか?

インフィル 本当に気持ちよかったです。他の格ゲー大会で優勝した時と比べても、あの時の方が全然よかった。自分は大会で優勝することより、自分を応援してくださるファンが増えることのほうが好きなんです。でも自分が行く大会ってほとんど海外大会だったので、いつもアウェイ気分だったんですよね。でも、この時は違いました。あの多くの人を、自分の意志でコントロールできたということじゃないですか。

――その経験が、以後いろんなキャラを選択するプレイスタイルに影響を与えたと見ていいでしょうか?

インフィル そうですね。自分にはかなり印象に残る出来事でした。

――それ以降、本当にバラエティ豊かなキャラ選びをしてきましたね。一般の選手は基本的にメインキャラ1人、ここにサブキャラを1~2人足すくらいですが、インフィル選手は10キャラ以上を使用し、いろんな大会で優勝しています。

インフィル あれは自分自身を証明する方法の一つでもありました。もちろん、メインとなるキャラを確実に決めてプレイする選手の方がポピュラーですが、せっかく44キャラも作ってあるのに、1キャラだけにこだわるってもったいないじゃないですか。ハカン以後は大会でさまざまなキャラを見せることの楽しさを覚えました。当時は豪鬼だけで3年以上やってきていて、1キャラだけ使うってのもちょっと飽きていたんですね。

02_01▲インフィル選手のカプコンカップ2015ファイナル紹介映像。一般的な選手は、使用キャラクターの欄は1キャラクターのみで、多くても2~3キャラ。しかしインフィル選手は使用キャラが多すぎて、“AND THE REST”と略されている。

――その選択は、選手生活にとってプラスになりましたか?

インフィル まず自分というゲーマーの個性を確立するのに役立ちました。自分みたいに大会で多くのキャラを使う選手って、今もいないじゃないですか。同時に、いろんなキャラを研究することで「相性」の理解もさらに深まりました。大会でのカウンターピックにも役立ちます。例えばリュウだけを使う人はリュウの事はよく知ってても、他のキャラがどういう考えで立ち回り戦うのかよく知らない場合が多いです。それはデータや他のプレイヤーの動きを分析すればわかることかもしれませんが、直接プレイするのとデータだけ見るのとでは、キャラ分析の密度が違うと思います。自分は基本的に飛び道具を持っているキャラを使いますが、『ウルⅣ』でディカープリをメインで使ったときに、「あ、飛び道具が無いキャラはこんな感じで立ちまわるのか」というのが分かりました。お陰でゲームのことをもっと柔軟に考えるようになったと思います。

――カプコンカップ2015を最後に、『ストⅣ』シリーズはいったん終わりを迎えた印象です。『ストⅣ』シリーズと歩んできた7年を振り返って、どう感じますか?

インフィル やはりカプコンが良いゲームを作ってくれたというのが一番大きいですね。それと同時に、『ストⅣ』シリーズをきっかけに新しく生まれた格ゲーコミュニティの発展ぶりが印象的でした。『ストⅣ』シリーズが一度は冷めきっていた世界の格ゲーコミュニティの火種となり、これに応えるように全世界に眠っていた格ゲーコミュニティが復活して、ここまで来れたと思います。

そして、日本とアメリカを中心に動いていたストリートファイターの舞台に、もっといろんな国の選手が出て活躍し始めたというのも印象に残ります。韓国出身である自分やプーンコ選手はもちろん、中国、台湾、シンガポール、フランス、ブラジルなど……、多くの国の選手が新しく台頭し、自分の強さを証明し、その国のコミュニティー拡大にも影響を与えています。

『ストⅣ』シリーズは本当に名作で、自分に新しい人生をもたらしたゲームでもあります。本当にいろんな経験、多くの人との出会いを与えてくれました。決して忘れることのできない、意味のあるゲームです。

次ページ:ライバルゲーマーたちを語る