【Web漫画】エッセイ漫画の異色作! 隔離病棟入院記『こころを病んで精神科病院に入院していました。』がなんだか怖いぞ!?
日々更新されるWebマンガ。大手出版社も本腰を入れ始め、その量たるやハンパな数ではなくなってきた。いくら我らがマンガ大好きジャパニーズだとはいえ、すべてを追いかけるには時間がいくらあっても足りないことだろう。積んどくことができない媒体なのも悩ましいところ。そこでmitokでは絶対に外せない注目作品を定期的にご紹介。Webマンガ、これを追うべし!
安藤たかゆき『こころを病んで精神科病院に入院していました。』 コミックエッセイ劇場連載
精神病や狂気といえば、創作物においては文学的なロマンで装飾されがちな難しい一題材。それがかえって、本物の精神病棟の様子とか患者本人の病識ってどうなん? という興味をかきたてるところでもありますよね。そんな読者の関心に応えてくれるのが、実際の精神病患者さんの生活を描いたコミックエッセイの本作です。
主人公は作者の安藤たかゆき氏自身。彼が入院した精神科病院の一日は、睡眠薬で辛い寝起きを押してラジオ体操をし、味覚が麻痺して味がしないご飯を飲み下し(のりたまをかけた時だけ味を感じる)、ナースさんの前で食後の大量服薬、自由時間には病院内の廊下をひたすら散歩……自己治癒を目指して淡々と過ごす一患者の日常が超ディティール豊かに描かれます。
シンプルな絵柄かつモノローグも平易で、描写も至って客観的。鬱屈した感情や幻覚・幻聴症状の強烈な描写も控えめで、本音のトコ「興味深いけど抑制されてて物足りないな?」と思っちゃう読者も多いハズ。実は本作、同人誌で発表された『精神病院』という作品を前身とするリメイク作で、その原作はわりあい全開です。
時は2004年、場所は国立防衛医大附属病院精神科。『精神病院』は作者自身の精神科入院記という体裁は同じながら、吃音の悩みからリストカットに走り、じきに幻覚と幻聴を患ったという、リメイクで捨象された作者自身の懊悩や症状の描写、被害妄想が入り混じった医師への憎悪などが全面に出ており、統合失調症の皮膚寄生虫妄想バリバリの表紙をはじめ全編が超アシッド。
キャラデザはやや久米田康治風で漫画的には荒削りながら、インディーズとしてはなかなかの表現力。カケアミの具合も密な濃ゆい筆致と演出で、商業でリメイクせざるを得なかった事情がたやすく了解されるダークテイストです。いわゆる狂気的な描写を期待する読者としてはこっちのほうが嬉しいハズ!
ではリメイク版はガロ系志向から『ゆめにっき』的な現代っ子向けメンヘラホラーに無理して脱臭したのかというとさもあらず。『精神病院』は本編終了後にギャグテイストのおまけ漫画が続いており、本編とは打って変わって、エグミが強い精神病棟あるある・吃音あるあるネタや重い人生体験があっけらかんと描かれて、ライトな4コマ漫画に昇華されています。中原中也好きで意気投合した心理学科の教授が自殺した話とか、さらっと流すには忍びないエピソードでしょうに……
要は、原作、おまけ漫画、リメイク版と進むにつれ、作者さんがだんだん病から吹っ切れていく感じが露わで、その逞しさと優しさに何かしら安心させられたり頼もしく感じてしまう、独特の感慨ある読書感覚が醍醐味なワケです。リメイク版はリメイク版で狂気の表現に抑揚が効いており、「原作読んだ後だと抑制してる感じが逆に怖いな!?」と二度楽しめること間違いナシ!
約10年前の体験記なので現在の精神科とは幾分違いがあるでしょうが、精神科の食堂の本棚に『ああっ女神さまっ』が全巻揃ってるとか良いリアリティが出ていて好きです。原作とあわせて読みたいコミックエッセイの異色作、ぜひどうぞ!
『こころを病んで精神科病院に入院していました。』掲載情報
・作者:安藤たかゆき
・掲載メディア:コミックエッセイ劇場、ニコニコ静画