新作ファミカセ開発裏話! ゲーム音楽界のレジェンド・慶野由利子&国本剛章が明かす『8BIT MUSIC POWER』でやった冒険とは?
楽曲に込められたテーマやモチーフ
RIKI 『8BIT MUSIC POWER』で書いていただいた曲に、テーマやモチーフなどはありますか?
慶野 ファミコンでできることをいろいろ冒険してみようと、好きなように作りました。さっき触れた三角波の高音やDPCM。それに、かつては無かったビブラートの機能も取り入れてみようと考えました。ビブラートを活かすにはスローテンポのほうが聴かせるのでゆったりした部分を作ったり、効果音っぽい音も入れてみたりしました。Tappyさんにかけていただいた疑似リバーブも効果的でしょ?
RIKI 効果音っぽい音というのは?
慶野 ゲームのBGMでは、効果音と紛らわしい音は使えなかったんです。私はそういう音を曲に混ぜ込むのも好きなので、今回はそういうところも含めて、自由に作りました。
国本 慶野さんがおっしゃるように縛りが何もなく、テーマから自由に作れる状態。ただ私は何もないと作れないタイプなんです。そこでRIKIさんのイラストを見て、この女の子をテーマに曲を作ろうと(『キラキラスターナイト』の表紙を見せながら)。だからタイトルも女の子らしくハートを付けて、「PICO MY HEART」に。
RIKI そうだったんですか! 最高です!
▲同人誌『キラキラスターナイト』の表紙。国本さんは、RIKIさんのイラストからイメージを膨らませて作曲したそうな。
国本 この子は恋に恋する乙女っていう設定です。RIKIさんに承諾もなく、勝手に(笑)。「片思いでまだ告白できないの」みたいな気持ちの揺れ動きですね。
RIKI そんな話が! うれしいなぁ。当時も、グラフィックを見ながら音楽を付けていたんですか?
国本 そうです。絵が7〜8割できた状態で、ヴィジュアルに合わせて音楽を作っていく。
RIKI 慶野さんの場合は、どうでしたか?
慶野 当時のナムコでは、アーケードの場合は、企画書が下りて来たらプログラマー、ハードの設計者、デザイナー、サウンド担当が一緒に集まって、そこからスタートしていました。
RIKI そんなに最初から!?
慶野 私の頃(1980年代)は、アーケードはそういう作り方でした。どんな筐体にするか、レバーやボタンをどうするか、というところから決めて、基板の設計から始めていきますから。
国本 私は慶野さんより少し後なんですよね。学生のころ、慶野さんの『ディグダグ』(1982年)なんかを死ぬほどやってて、その2〜3年後に『チャレンジャー』(1985年)を作ったという。
RIKI どういう風にして、ゲーム業界に入ったんですか?
国本 私の場合は、ハドソンの社員ではありませんでした。『チャレンジャー』『スターソルジャー』の音楽を作っているときも、身分としては大学生。
RIKI 大学生ですか!
国本 なんちゃって大学生ですね。籍はあるけど行ってない状態。楽器屋でアルバイトをしていて、宣伝のために私の曲をデモ演奏で流していたんですね。そこにハドソンの音楽担当の人が来て。
RIKI 当時の話は面白いですね!
慶野 最近、当時のことを調べる機会があるのですが、けっこうわからなくなっていることもあるんです。サウンドドライバーの作者が不明だったり。
RIKI メーカーにも資料が無いことが多いようです。
慶野 ゲームについて記録したり調べたりすることは、現代の民俗学だと私は思っています。民俗学の対象は、生活用品だったり娯楽だったり、同時代では文化として認められていなかったものが中心です。そこに価値が見出されたころには、だれが作ったものかすらわからなくなっている。ゲームも30年経ってようやく価値が認められてきたところ。これからはゲームについて整理して記録していくことが重要になってくると思います。
編集 最後に、最近の活動について教えてください。
慶野 ネパールの大地震被災地救援のためのチャリティーCD「GAMEMUSIC PRAYER 3」に1曲参加しました。10月のM3(音楽の同人即売会)で発売され、今はゲーム探偵団さんの通販で扱われています。『ドラゴンバスター』で主人公がセリア姫を助け出したシーンの音楽をベースに、『ディグダグ』BGM、『パック&パル』BGM、『ゼビウス』2位以下ネームエントリー、『ポールポジション』1位ネームエントリーがメドレーで出てくるというスペシャルリミックス作品です。
RIKI このCDには、『キラキラスターナイト』のメインBGMも入っているんですよ。ぜひ聴いてみてください!
国本 最近は、ご当地ソングのようなものを作っています。最近作ったのは、福岡ゲームミュージックフェスというイベントとコラボした「博多弁の歌」。このほか、千葉県公式キャラクター「チーバくん」の応援ソング「オンリーワン!チーバくん」なども。日本各地のゲーム音楽が好きな若い人たちと繋がりつつ、自分も旅をする。いろんなところに行ってみたいだけなんですが(笑)。
RIKI ありがとうございます。これからも、ファミコンでいろいろとチャレンジしていきたいと思っています。もし次の機会があれば、またファミコンの音楽を作ってください!
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『8BIT MUSICT POWER』は豪華コンポーザー陣によるハイクオリティサウンドもさることながら、実はかなりテッキーな作りになっている点も注目だったりします。楽曲再生中には、一枚絵やエフェクトが表示されるんです(これ実はけっこうすごい)。ビジュアルの面でも、ファミコンの限界にチャレンジしている本作、ぜひ体験してみてほしいですね!!