弾道ミサイルを迎撃しても核爆発がありえない理由

▲地対空誘導弾ペトリオット(PAC-3)。航空自衛隊のサイトより引用

北朝鮮がグアム島周辺に向けた弾道ミサイルの発射を検討していると発表し、国際情勢が緊迫している昨今。その飛行ルートに日本上空も含まれるということで、自衛隊が中国・四国地方の4カ所に迎撃ミサイルPAC-3の配備を行いました。

先の見えない状況に不安がつのりますが、防衛省の前田哲防衛政策局長は、8月10日の参院外交防衛委員会で以下のように述べたということです。

ーー核兵器が搭載された弾道ミサイルを自衛隊が迎撃した場合、一般論と断った上で「迎撃により起爆装置などの機能は喪失する。核爆発による被害は発生しない」時事通信より引用

この「迎撃による核爆発が起こらない」というのは、どういう理由なのでしょうか。そこで、ア理科シリーズでおなじみ、『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』の著者である亜留間次郎氏に、詳しい解説をお願いしました!

核爆発には精密機械の正確な作動が必須

▲アントニオ猪木議員の質問に答える前田哲防衛政策局長。参議院インターネット審議中継より

最近、北朝鮮の核ミサイルが飛んでくるんじゃないかと心配されています。そんななか、2017年8月10日の外交防衛委員会にて、防衛省局長は、

ーー迎撃により起爆装置等の機能は喪失をさせるということになろうと思います。核爆発による被害は、したがって発生しないものと考えております。

と発言しました(参議院インターネット審議中継 2017年8月10日 外交防衛委員会の3:12:56~を参照)。これに対し、「そんなことサラッと言われても信じられない。迎撃ミサイルがぶつかった衝撃でも、核爆発が起きちゃうのでは?」と不安に思う人も多いことでしょう。

が、それはほぼありえません。なぜかというと、核兵器は非常に精密な機械であり、核爆発を起こすためには正確に作動する必要があるからです。具体的に言うと、核爆発は、核兵器の中にあるプルトニウムを360度全方向から、数百万気圧というものすごい圧力で均等に圧縮することで起こります。これを行う仕組みを「爆縮レンズ」と言います。

誤差0.1マイクロ秒以内! 32個の起爆装置を同時に起動する

▲爆縮レンズの構造モデル。サッカーボールのなかに小さなサッカーボールが入っているイメージ。

爆縮レンズは、五角形の底面を持つ爆薬12個と六角形の底面を持つ爆薬20個という、ちょうどサッカーボールのような構成になっています。プルトニウムを均等に圧縮するためには、爆縮レンズの各面に取り付けられた32個の起爆装置を同時に起動させなくてはなりません。その許容誤差は0.1マイクロ秒。ちなみに、光が0.1マイクロ秒で進む距離は30m弱(正確には29.9792458m)で、このレベルの精度になると、電気回路の線の長さを気にしなければならないほどです。

もし32個の起爆装置をつなぐ電線が1本でも切れたり、電気回路に何かが挟まったりしたら、核爆発は起きません。精密すぎるため、予備回路や冗長性といったものを持たせることも難しいので、迎撃ミサイルの破片がたった1個突き刺さっただけでも、機能不全に陥ってしまうでしょう。というか、発射の衝撃や、飛んでる時のGとかでも勝手に壊れてしまう可能性があるほどです。というわけで、迎撃ミサイルが命中すれば、防衛省局長が答弁したように「一般論として、起爆装置の機能が喪失し核爆発は起きない」のです。

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ただし、迎撃に成功したら万々歳、という話でもありません。核爆発が起こらなかったとしても、核物質を飛散させて敵国を放射能汚染することを目的とした「汚い爆弾(ダーティー・ボム)」というものもあります。汚染問題によっていろんな物が売れなくなるなど、深刻な風評被害に陥る可能性があるのです。

とにかく、なにも起こらないことが一番。情勢が落ち着くことを願ってやみません。