みんな大好きなコーラ。でも、子どものころに大人から「コーラを飲んでると骨が溶けるよ!」などと脅された経験がある人も少なくないのでは?
でも、この話って、本当のところはどうなのでしょうか。
そこで今回、ア理科シリーズでおなじみ、『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』の著者である亜留間次郎氏に、詳しい解説をお願いしました!
【解説者】亜留間次郎
薬理凶室メンバーとして「アリエナイ理科ノ教科書」シリーズの執筆に携わる謎の怪人。医学、物理ネタから世界情勢の裏事情まで、得意分野は多岐にわたる。単著に『アリエナイ理科式世界征服マニュアル』がある。Twitter
コーラに含まれる「リン酸」って何?
多くの人が「コーラを飲んでると骨が溶ける」などと脅されながら育ってきたのではないでしょうか。そしてほとんどの人は、そんなことを気にせずコーラを飲み続け、それでいて、特に骨が溶けたという実感もなかったことでしょう。ということは、やはりコーラで骨が溶けるというのはただの都市伝説なのでしょうか?
実は、そうとも言い切れないんですね。コーラには、あの独特の渋みを伴う酸味を表現するために、「リン酸」が使われています。このリン酸は、摂りすぎると骨の合成にとって良くない影響があるかもしれないと言われているのです。
たとえば、公益財団法人骨粗鬆症財団を見てみると……
コーラにはリン酸が多く含まれており、カルシウムの吸収を妨げるので、 あまり大量には飲まない方が良いでしょう。(公益財団法人骨粗鬆症財団のサイトより引用)
と、いきなり結論的なことが書かれています!(※ちなみに、リンク先ではカフェインについても触れられていますが、当記事ではリン酸にしぼって見ていきます)
そもそもの話ですが、リン酸(を構成するリン)は、すべての生物にとってなくてはならないもの。カルシウムと結合して骨や歯を形作っているほかにも、DNAやATP(アデノシン三リン酸)などで生命の維持に重要な役割を担っているんですね。
そんな大事なリンですが、なぜ摂りすぎるとよくないのでしょうか? さきほどの骨粗鬆症財団のサイトによると、
リンはカルシウムと仲がよすぎて、すぐ一緒になってしまうのです。骨の中でも、リンとカルシウムはリン酸カルシウムとして結晶になっています。大量にリンを摂り、腸の中でカルシウムとくっついてしまうとやはり結晶になるので、腸管に吸収されて体の中には入らず、そのまま便に混じって出てしまいます。そのため、リンを取りすぎるとカルシウムの吸収の邪魔をするのです。ですからリンは摂り過ぎない方がよく、カルシウムの2倍ぐらいまでが良いとされています。(公益財団法人骨粗鬆症財団のサイトより引用)
とのこと。ちなみにリンは、いろいろな食物にふんだんに含まれているので、普通に食事をしていれば必要な量はほぼ足りてしまうようです。平成27年の「国民健康・栄養調査」によると、「栄養素等摂取量(1歳以上、男女計、年齢階級別)」は、
- カルシウム 517mg
- リン 990mg
となっています。この調査では食品添加物としてのリン酸の量は加算されていないため、 実際のリン摂取量はこれより多いと予想されています。現状、我々は、カルシウムの2倍以上のリンを摂取している感じなんですね。
コカ・コーラ社の反論
というわけで「コーラで骨が溶ける」問題で大きな部分を占めるのは、酸味料に使われている「リン酸」を大量に摂取するとカルシウムの吸収を阻害し、骨密度を下げる原因となる可能性があるかもしれない、ということのようです。しかし、コカ・コーラ社は(当然ながら)それを否定しています。
コカ・コーラ社は「飲料アカデミー」というページにて、栄養と骨の健康の専門家であるRobert P. Heaney先生へのインタビュー記事を掲載しており、
(Robert P. Heaney先生)私たちが実施したカルシウムと代謝の研究で、コーラ飲料に含まれるリン酸は尿中カルシウム損失に対してまったく影響を及ぼさないことが明らかになっています。(コカ・コーラ社「飲料アカデミー 飲料が骨に及ぼす影響の有無を検証。」より引用)
というコメントをもらっています。ちなみに、Robert P. Heaney先生の論文はこちら。
Carbonated beverages and urinary calcium excretion. Am J Clin Nutr. 2001 Sep;74(3):343-7.
この論文の趣旨は「尿に排出されるカルシウムの量は、コーラを飲んでも変わらなかった」というもの。なので、骨密度が減少していたかどうかは測定していません。一番知りたい部分についての回答ではないわけです。
コーラが女性の骨密度の減少に関係ありという論文も
いっぽう、コーラと骨密度の関係について調査した論文も存在しています。
こちらの論文では、年長の女性において、コーラの摂取は低BMD(骨密度)と関連していると結論付けられています。
具体的な要点は、以下の通り(※「サービング(serving、SV)」は、食事の提供量を示す単位。当論文では「消費量は週あたりの平均サービングを測定。1サービングは1グラス、1缶、または1ボトルと定義した」とある)。
- 1971年から2001年までに行われた6サイクルの骨粗鬆症についての調査データから、男性(年齢:59.4±9.5)1,125人、女性(年齢:58.2±9.4)1,413人を対象に分析
- 女性の大腿骨頚部の骨密度が、コーラを飲まない人は0.89g/cm2だったのに対し、週に1~3サービング飲む人は0.87g/cm2、3~7サービング飲む人は0.865g/cm2、7サービング以上飲む人は0.855g/cm2だった
- コーラ以外の炭酸飲料では、有意な差は見られなかった
- 男性については、有意な差は見られなかった
というわけで、年長の女性においては、コーラを飲むと骨密度が下がるという結果が得られたとのこと。この論文では「さらなる調査が必要」としながらも、「骨粗鬆症の懸念がある女性は、コーラの常飲は避けたほうがいいかもしれません」とまとめていました。
まとめ
コーラの摂取と骨密度の減少の関係については、否定論、肯定論が交錯していますが、減少と関係があるとするデータがあることも確か。とはいえ、上記の論文を踏まえたとしても、「常飲」するレベルでなければ問題はないとも言えそうです。
ちなみに、コーラ以外にどんなソフトドリンクにリン酸(またはリン)が含まれているのか、気になった人もいることでしょう。アサヒ飲料やサントリーはサイトにて自社製品の栄養成分を公開しているので、確認してみてください。
炭酸飲料としては、やはりコーラ系に100mlあたり約20mg程度含まれています。それ以外の炭酸飲料だと1mg程度入っていることもあるようです。コーヒーや乳飲料、野菜ジュースなどにもリンはけっこう含まれていますが、これらを先述の「コーラと骨密度の関係」の論文にそのまま当てはめたりしないよう、くれぐれも注意してくださいね。
決まりきった話になってしまいますが、普段からバランスのよい食事を心がけることこそが大事です。カルシウムをはじめとしたさまざまな栄養素をしっかり摂った上で、コーラは適度にたしなむようにしましょう。