当サイトではファストフード店やコンビニ、カフェチェーンなどのメニューを対象にカロリーランキングをときどきお届けしています。カロリー(kcal)は、健康などに気を使って食品を選びたいときなどに便利なひとつの指標ですが、そもそもどうやって導き出された数値なのでしょうか。
そんな疑問に、「アリエナイ理科」シリーズなどでおなじみの亜留間次郎氏に解説してもらいましたよ!
爆発的にカロリーを測定せよ!
「カロリー」という単位は国際的に使用禁止だったりします。ですが、我々は日常的に使っていますし、食品のパッケージなどにも書かれていますよね。なぜかというと、日本ではすでに一般に定着しているので、食物または代謝の熱量の計量に限って使用できると、計量法という法律で決められているからです。
カロリーの本来の意味は「水の温度を上昇させる熱量」だったのですが、法規制で使える場所がものすごく限定されているため、いまや「生理的熱量」を表すものと考えたほうが良いでしょう。「生理的熱量」とは、生物が新陳代謝や運動で消費するエネルギー、または食べ物に含まれている栄養のことです。
カロリーの測り方
食堂に行くとメニューにカロリーが書いてあったり、ダイエット本に「スクワット1時間で260kcalを消費する」とか書いてあったりします。このように食べ物や運動のカロリーが意識されるようになったのは1900年前後のこと。ウィルバー・オリン・アトウォーター(Wilbur Olin Atwater)博士の研究に始まります。
博士は元々、トウモロコシの栽培や肥料が専門だったのですが、それを食べる人間にとっての栄養について研究をするようになり、大きな業績を残しました。食べ物にカロリーがある、運動するとカロリーを消費する、余分なカロリーを取るとデブになるという、今日では常識ともいえることを発見し、その測定方法まで発明した天才です。
カロリーの測定方法は以下の4種類がありますが、そのうち①~③はアトウォーター博士によるもの。100年経った今でも、Atwatersystemは広く使われています。
①酸素消費量
動物が体内で消費したカロリーを測定する方法で、酸素の消費が同量であれば、熱量の発生も同等だと推定するというもの。主に、基礎代謝や運動によって消費されるカロリーの測定に用いられる。実際には、呼気中の二酸化炭素濃度から簡易的に求めることが多い。酸素マスクをしてルームランナーを走っている写真を見たことがあるだろう。あれは吐いた息の二酸化炭素濃度を測定して、消費したカロリーを求めているのだ。
②生体からの放出熱量
こちらも動物が体内で消費したカロリーを測定する方法だ。生物を断熱気密室に入れて走らせるなどしたのち、室温の上昇を測って放出した熱量を推定する。①の酸素消費量からの測定法の補助として用いられることが多い。 アトウォーター博士は10万ドル(現代なら30億円ぐらい)をかけて、ウェズリアン大学の科学施設の地下に4×8フィート(約3㎡)の測定室を作った。この地下室は現在も残っており、学生たちの怪談のネタになっているという。
③食物を燃やした熱量
食べ物に含まれているカロリーを調べる方法。食物を空気中で燃やして得られた熱量と、同量の食物を摂取して出た排泄物を燃やして得られた熱量の差から、食物から吸収した熱量を推定。さらに消化吸収率などを考慮した「アトウォーター係数」(アトウォーター博士が1896年に500人もの人間を農業試験場に監禁して調べた成果)で補正して求める。
④分子化学的機序
現代では、解糖系など栄養素のエネルギー変換の分子的機序が明らかになっているため、その過程から得られる熱量を推定する。計算が死ぬほど面倒なので、特殊な専門家以外、まず使わない。
爆発カロリー計測器
食物の栄養学的熱量を計測する場合、一般的に用いられているのは③の方法(食物を燃やした熱量)となります。ファーストフード店などで表示されているカロリーは、基本的にこれで導き出した数値です。ちなみに、そのための試験装置は「爆発カロリー計測器(Bomb calorimeters)」なんて物騒なものだったりします。
▲爆発カロリー計測器の仕組みイメージ
やり方は、乾燥粉末にした食べ物を、酸素を充填した密閉容器に入れて、水槽に沈めて爆発させるというもの。その熱によって上昇した水温を測定するのです。なぜ爆燃させる必要があるのかというと、普通にゆっくり燃やしていると熱が逃げてしまうから。正確に測るためには、瞬間的に燃焼、つまり爆燃させる必要があるのです。
ただし、爆発カロリー計測器で測った熱量は、食べ物を100%カロリーに変換できたときの値であり、現実と乖離しています。そこで、アトウォーター係数を使って補正します。具体的には、爆発カロリー計測器で測った燃焼熱から、それを摂取した場合にウンコとして排泄される部分の燃焼熱と、尿として排泄される部分の燃焼熱を差し引くのです。
たとえば、脂肪1gを燃焼させると9.4kcalの熱量が発生しますが、消化吸収率が95%なので9kcalとして計算します。炭水化物は、1g燃焼させると4.1kcalの熱量が発生。消化吸収率が97%なので、4kcalとして計算します。ただし、炭水化物の中でもアルコールだけは別格で、7kcalとして計算するので注意してください。タンパク質1gの場合は5.7kcalの熱量が発生しますが、そのうち実際に吸収されるのは92%で、吸収後利用されずに排泄される分が1.25kcalあるので、差し引き4kcalとして扱います。
とまあこのように、食べ物のカロリーを出すための計算はややこしいのですが、爆発カロリー計測器はパソコンと繋がっていて、付属ソフトが自動的に補正された値を計算してくれるので、簡単に数値が出てきます。この方法はどんな料理でも短時間でカロリーが求められるので、頻繁にメニューが変わる現代では重宝されているようです。
実際に計算してみよう
実際に、マクドナルドのHPに掲載されているビッグマックのカロリーを見てみましょう。エネルギーは530kcalと表示されていました。そこで、ビッグマックの成分表にアトウォーター係数をかけてみます。すると、ほぼ一致しました(食物繊維は少量のため、カロリーゼロと見なすことも多い)。
- たんぱく質:27.1(g)×4kcal/g=108.4kcal
- 脂質:28.2(g)×9kcal/g=253.8kcal
- 炭水化物:41.9(g)×4kcal/g=167.6kcal
- 食物繊維:2.9(g) ×2kcal/g= 5.8kcal
- ビッグマック合計カロリー:535.6kcal
マクドナルドが掲示する栄養情報は、標準的な製品仕様と調理から「栄養表示基準」(健康増進法)にもとづく栄養分析の数値を基本としており、一部の食材は「五訂増補日本食品標準成分表」(文部科学省)を引用し作成しているそうです。一応は、平成11年4月26日付衛新第13号新開発食品保健対策室長通知「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」という長ったらしい名前の面倒な法律をちゃんと守って表示しているようですね。
カロリーにまつわる珍説あれこれ
人間、誰しも「健康」には興味を持っていることだろう。しかし、身近で切実であるからこそ、珍説・暴論がはびこりやすいのが現実だ。ここでは、「カロリー」にまつわるいくつかの誤った情報を正しておこう。
エンプティカロリー
「エンプティカロリー」という言葉が一部で独り歩きしている。曰く「カロリーが空っぽ」なのでいくら摂取しても太らない。しかも、それにアルコールが該当するというのだ。
だがちょっと待ってほしい。そもそも「エンプティカロリー(Emptycalorie)」とは、アメリカの公共利益団体(CenterforScienceinthePublicInterest)に所属するマイケル・F・ジェーコブソン博士(MichaelF.Jacobson)が造った言葉で、ビタミンなどの必須栄養素を含まない、栄養価的に無価値な食物(ジャンクフード)という意味。カロリーがないとは言っていない。
それが日本では曲解されて、なぜか「エンプティカロリーは太らない」となったようだ。しかし、実際にはアルコールは1gで7kcalとかなり高カロリーであり、普通に太る。言葉の意味が歪んでしまった悪い事例と言えるだろう。
ネガティブカロリー
「レタスのカロリーは、レタスを消化吸収するのに必要なカロリーよりも小さいから食べるほどカロリーがマイナスになる」という、「ネガティブカロリー(またはマイナスカロリー)」なる珍説が出回っているようだ。
しかしこれは完全な誤り。そもそも、人間を含めた動物は、消化吸収の収支が赤字になる物は食べられないようにできている。特に人間は、消化吸収に要するカロリーが少ない物しか食べられない。レタスは、ただ単に低カロリー(100gあたり12kcal)なだけである。たとえば、1日にレタスを10kg食べても1,200kcal。これでは成人男性の基礎代謝とされる約1,500kcalに届かない。日々の摂取カロリーが基礎代謝に満たなければやせ細り、いつしか餓死するのは当然の理屈だ。
コアラのように消化しにくい植物だけを食べるように進化した珍獣もいるが、コアラにとってユーカリの葉はネガティブカロリーではない。ネガティブカロリーな食べ物は、進化の過程ではじかれているのだ。
レモン1個分のビタミンCは何mg?
日本には、カロリー計算をはじめとした日常的な食品の成分に関するデータの基準として、文部科学省が発行している「日本食品標準成分表」がある。
この表をもとにすると、レモン1個(100gとして計算)のビタミンCは、可食部のみで50mg、皮まですべて含めて100mgとなるはず。しかし、某飲料メーカーの宣伝文句では2,000mgのビタミンCを「レモン100個分」と謳っていることから、レモン1個あたり20mgとして計算している。この数字はどこから来たのだろうか?
実は、農林水産省の「ビタミンC含有菓子の品質表示ガイドライン」ではレモン1個のビタミンCは20mgとなっているのだ。このガイドラインは2008年に廃止されたにもかかわらず、業界では勝手に使い続けている模様。
飲料メーカー的には「レモン1個(100g)を絞り機にかけるとレモン果汁20gができる。飲料に入るのはこの絞り汁の部分だから、レモン1個につきビタミンC20mgは文部科学省のデータと矛盾しない」という理屈のようだ。メーカーとしては、少しでも多く見せようとして数字の小さい基準をわざと選んでいるのだろう。
ちなみに、食品の基準データとしては消費者庁の「健康増進法に基づく食品表示ガイド」なんてものもある。縦割り行政の世界はカオスなのだ。